事務局からのお知らせ

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2020年度 山口正栄記念奨学財団 修了式

2021年2月27日第35期生の修了式が執り行われました。

今年度は全てがオンラインで執り行われましたが修了式もzoom会議システムを使っての式となりました。修了生は、大学院への進学、東京に進学する学生や、企業に就職される方々、皆さん進路は様々です。

北海道科学大学副学長であり、当財団の評議員でいらっしゃいます川上 敬先生より開会のご挨拶をいただき修了式がスタートしました!

まずはビブリオバトルです。最後の個人戦であり、グループ戦でもあるビブリオバトル!今年は各グループしっかりと予選を行ってきていました!公立はこだて未来大学准教授で、当財団のOBでもいらっしゃいます奥野 拓先生の司会のもとビブリオバトルが始まりました。それぞれのグループから発表者が選出され、質疑応答も活発に行われました!発表者はもちろんですが、質問者もなかなか興味深い観察の中バトルが行われました。奥野先生からも総合司会の川上先生からも、「時間が足りなかったですね!」とコメントされるくらい楽しいバトルが繰り広げられました!

ご紹介いただいた書籍は

Aグループ 三輪 拓実さん

「心は量子で語れるか」著 ロジャー・ベン・ローズ 翻訳 中村 和幸

Bグループ 福江 優香さん

「あやうく一生懸命生きるところだった」著 ハ・ワン 翻訳 岡崎暢子

Cグループ 大場 光希さん

「コロナで都市は変わるか-欧米からの報告」著 矢作 弘、他

Dグループ 大貫 瞳さん

「思わず考えちゃう」著 ヨシタケシンスケ

Eグループ 山家 椋太さん

「社会を<モデル>でみる 数理社会学への招待」 日本数理社会学会監修

Fグループ 西村 将太朗さん

「宇宙を目指して海を渡る」著 小野 雅裕

その後は元北海道大学病院長であり、北海道大学名誉教授でいらっしゃいます加藤紘之先生が基調講演をしてくださいました。

加藤先生は当財団の理事でもいらっしゃいます。先生は新型コロナウイルスの最新情報と、ご自身のこれまでの経験をお話しくださり、新しくスタートする修了生へのエールもくださいました!「世の中のためにあれ! 人に尽くす自分であれ! その時、道は開ける!!」先生のこれまでの経験に裏打ちされた励ましのお言葉に皆さん襟を正される思いだったに違いありません!





さて、休憩とお食事ですが、今回も全員で同じランチを取りましょう!とういう主旨でピザハットさんから皆さんのお家へデリバリーされました。大変評判が良かったので、まだ、ズームでの式が続くようでしたら次回も学生の皆様にはこのセットが届くことになると思います。

そして、午後の部がスタートです。各先生方、北海学園大学名誉教授でいらっしゃる山ノ井髙洋先生、株式会社メジャーセブン代表取締役でいらっしゃいます柳森利宣様、北海道情報大学教授でいらっしゃいます中島 潤先生、そして小樽商科大学教授でいらっしゃいます加地 太一教授よりそれぞれお祝いの言葉とビブリオバトルについての短評がありました。

そして表彰です。
午前中に行われたビブリオバトルプレゼンターは当財団の選考委員長であり、公立はこだて未来大学教授でいらっしゃいます鈴木 恵二先生です。

個人賞(松本篤二賞)は福江優香さん、そしてグループ賞はBグループです。

ご紹介いただいた本、「あやうく一生懸命生きるところだった」著者 ハ・ワン 翻訳 岡崎暢子 ですが、先生方の中には「早速Amazonで購入しました!」というお言葉も!
様々な名言があるようです!皆様もいかがでしょうか?福江さん、そしてBグループの皆様おめでとうございました。

続きまして、JTS賞です。JTS賞は国際学会への旅費支援として設けられています。今年はほとんどの学会がオンラインでの開催となっているので、国内外問わずエントリーできるものでした。応募者は7名 プレゼンターは株式会社ジャパンテクニカルソフトウェアを代表いただきまして松浦 賢一様です。

そしてJTS賞に選ばれたのは、北海道大学大学院 工学院 機械宇宙工学専攻 修士2年 奥田椋太さんです。おめでとうございます。

続いて山口正雄賞 今回は奨学生としてその活動を真摯に行い各イベントにも積極的に参加した5名の奨学生に奨励賞として授与されました。プレゼンターは当財団の専務理事であり、北海道大学名誉教授でいらっしゃいます関口 恭毅先生です。

受賞者は
北海道情報大学  窪田 有希さん
小樽商科大学   大束 優未さん
北海道大学大学院  山家 椋太さん
北海道大学     西村 将太朗さん
北海道大学大学院  福田 哲也さん

皆様、2年間財団奨学生としてご協力くださりありがとうございました。

そして最後に当財団理事長、北海道大学名誉教授でいらっしゃいます嘉数侑昇先生より皆様へ修了証が一人一人に授与され、はなむけのお言葉も頂戴いたしました。

修了生からもお礼のコメントをいただきました。新型コロナウイルスの影響で多くの式典が簡素化され、奨学生全員が対面する機会がないこの一年でしたが、有意義な学生生活の一助となれたのでしたら財団として嬉しい限りです。2年間ありがとうございました。そして皆様の益々のご活躍を心よりお祈りいたしております。

< 学会発表>

●北海道大学総合化学院 修士1年 江部 陽
発表学会: 第55回 高分子学会北海道支部研究発表会 2021年1月28日
発表題目:「グラフトポリマー混合シリコーンゴムの調製と物性評価」
発表者および著者: ○江部 陽、藤原魁佑、Brian J. Ree、磯野拓也、田島健次、佐藤敏文
備考: 優秀ポスター賞を受賞
【概要】
グラフトポリマーの添加により擬ロタキサン構造を有する3 次元ネットワークポリマーを調製し、その力学的特性の向上を目的とした。具体的には、側鎖がポリジメチルシロキサン (PDMS) からなるグラフトポリマー (graft-PDMS) を合成し、その存在下で二官能性 PDMS の架橋反応を行うことでネットワーク内に擬ロタキサン構造を有するシリコーンゴムを調製した 。さらに、引張試験により力学的特性の評価を行った結果、靭性の増大が確認された。このことは擬ロタキサン構造形成による応力分散を示唆している。
以上より、ポリマーネットワーク中へのグラフトポリマーの添加がシリコーンゴムの力学的特性の向上に有用であることを明らかにした。

●北海道大学大学院 修士2年 大内 昴
・参加学会
The 8th International Conference on Human-Agent Interaction
これはエージェント(ロボットやヴァーチャルエージェントを含む)と人間のインタラクションに関する最先端の研究を扱う国際学会である。
・開催地Sydney, Australia (ONLINE), 10-13th November,
・テーマHow Agents Provide Sports Motivation: Impression Ratings of Videos in Sport Climbing
・アピール点
研究内容は、スポーツ競技者のモチベーションを上げるためのエージェントを用いた提案である。これまでエージェントやロボットをコーチやパートナーとしてユーザのモチベーション向上を支援してきたものはあったが、アスリートを対象にしたものは検討されていなかった。そのため、本研究では「CGエージェントと音声による応援」、「音声のみの応援」、「応援なし」の条件下で実験を行った。その結果、スポーツ初心者にとっては「CGエージェントと音声による応援」が「応援なし」の条件より、効果的であり、モチベーションを維持させるためにポジティブな効果があることが示された。
この研究は人間とエージェントとのインタラクションにおける、エージェントの新たな活用方法を提案した点、また人間のエージェントに対する認識を明らかにした点で、意義のある研究である。
・参考URL
学会URL:https://hai-conference.net/hai2020/
DOI:https://doi.org/10.1145/3406499.3418752

●公立千歳科学技術大学大学院 光科学研究科 光科学専攻 下村・平井研 辻岡一眞
・参加学会①
33rd International Microprocesses and Nanotechnology Conference(MNC2020)
・開催
Nov. 9-12, 2020, オンライン開催(動画投稿型)
・学会の詳細
マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議 (MNC) は応用物理学会主催のもと1988年より毎年開催されており、次世代技術として関心の高い新領域も積極的に取り込みながら、現在では米国のEIPBNシンポジウム、欧州のMNEコンファレンスとともに、世界への情報の発信、研究者・技術者間の深い情報交換の場として重要な役割を果たしている学会である。主な研究トピックは微細加工、半導体技術、ナノテクノロジーである。MNC 2019 (第32回国際会議)では、投稿論文数が361件、会議参加者も17カ国・地域を超えるところから435名に達している。・発表タイトルと概要
タイトル : Preparation of Cellulose Nanocrystal/Chitosan Composite Multi-Functional Films [○Kazuma Tsujioka, Yuji Hirai and Masatsugu Shimomura]
概要 : 近年、プラスチック包装材料による海洋汚染問題解決のために持続可能性と材料特性(生分解性、機械的特性、バリア性)を兼ね備えたセルロースナノクリスタル(CNC)/キトサン(CS)コンポジットフィルムが着目され研究が進んでいる。しかし、プラスチック包装材に比べナノセルロース材料は熱シール性が欠如しているという弱点があり、現在も熱シール可能にされていない。多くの研究はこの弱点の解決のためにプラスチックとの混合やコーティングを行っているが、この手法では環境流出した際に生分解されず、海洋汚染の問題が解決されない。また、CNCとキトサンを混合する際に凍結乾燥法などのプロセスを挟む必要があり、手間やコストが掛かってしまう。これはCNCを得る際に酸加水分解することでCNCがアニオンとなるため、カチオンであるキトサンと凝集してしまうのを防ぐためである。そこで本研究では既存のものとは異なる手法によって得られたCNCを用いることでこれらの問題の解決を試みた。これにより、フィルムは単純な撹拌で混合しても凝集体は生じず透明材料並みのの透明性を持つことが分かった。さらに、角質化によるシール性の付与に成功した。シール強度試験はJIS規格に沿って行われ、食品包装に必要とされるだけのシール強度が得られた。また、引張試験機による材料強度試験でもCNCやキトサンのみのフィルムに比べて引張強度や柔軟性が向上していることが明らかとなった。加えて、さらなる高機能化へ向けて微細構造の転写を行った。キトサンを含むフィルムは鋳型から構造が転写され超撥水性を示すことが分かった。この結果は超撥水性以外にも微細構造転写による機能性の付与が可能であることを示している。
・アピール点
今回の研究で特筆すべき点は、
① ナノセルロース材料ではじめて熱シール可能にし、透明性や材料強度などの特性を兼ね備えている
② 混合方法に特別なプロセスを挟まず、単純な撹拌によって混合溶液が得られる
③ 高CNC比率であるのでコスト削減につながる
という3点である。
この3点は、既存の論文に多く見られるような手法で得られたCNCではなく異なる手法によって得られたCNCを用いることで可能であることが実験結果と文献から推察された。以上の結果は概要でも述べたようにCNC/キトサンコンポジットフィルムがプラスチック代替材料として実用化されるために必要であり、今後の研究における有効な知見になり得ると考え、MNC2020にてオーラル発表を行った。
また、同様の研究テーマについて、以下の学会での発表を申し込み済みである。
第70回高分子学会年次大会 [透明性、高い材料強度、シール性を有するセルロースナノクリスタル/キトサンコンポジットフィルム] 千歳科技大院 ○辻岡 一眞・平井 悠司・下村 政嗣 (ポスター発表)
この学会は私の所属する高分子学会の3大行事の一つである。このような学会での発表に至ったことは、研究成果が高く評価されていることを示している。

・参加学会②
高分子学会 2020年度第55回北海道支部研究発表会
・開催
2020年 1月 28日, オンライン開催(リアルタイム型)
・学会の詳細
この学会は私の所属する高分子学会の北海道支部における研究発表会である。今年度は新型コロナ感染症のためオンライン(リアルタイム型)での開催となった。
・発表タイトルと概要
タイトル : ウバウオから着想を得た新規接着メカニズムの解明 [○辻岡 一眞・平井 悠司・下村 政嗣]
概要 : ウバウオは魚類の一種であり腹部の吸盤によって水中の凹凸面に吸着可能である。この吸盤の縁にある乳頭(突起)には微細なナノスケールの毛が生えておりその表面が粘液で覆われている構造となっている。今までの研究によればウバウオの高い吸着力は毛状構造による摩擦力と接触面積の増加によって生じると考えられているが、粘液で覆われている状態で十分な効果が発揮できるかは疑問に残る。一方で一般的な接着剤や両面テープのような粘着剤に必要な要因は摩擦力の増加ではなく、接触面積の増加に必要な「柔軟性」と剥離時の変形(応力)に抵抗するための「硬さ」の両立である。我々は、ウバウオはこの柔らかさと硬さの両立を粘液と毛状構造によって行っているのではないかと考えた。本研究では高分子毛状構造とシリコーン樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いてウバウオの構造を模倣し、引張試験機による接着力測定と有限要素法によるシミュレーションの2つの観点から特性評価を行った。その結果、紙やすりなどの凹凸を持つ材料でも水中で接着可能であり、水入りのビーカーのような重量のあるものでも持ち上げられることが分かった。これらの結果は柔らかいPDMSによって接着力を生み出し、硬い毛状構造によって接着力を強化していることがシミュレーションと実際の測定結果から明らかとなった。これらの研究によって得られた知見は様々な分野において有効になり得ると考え、高分子学会北海道支部研究発表会にてオーラル発表を行った。
・アピール点
これまでの生物模倣分野における接着材料は、ヤモリを模倣したgecko tapeに代表されるように毛状構造による接触面積や摩擦力の増加を利用したものがほとんどであった。それに対し、本研究では既存のメカニズムとは全く異なる柔らかさと硬さの両立という新しいコンセプトによって高い接着力を生じさせた。また、このような毛状構造と粘液の組み合わせはタコやイソギンチャクなどにも見られるため、バイオミメティクス分野における第2の接着メカニズムとなる可能性がある。
このメカニズムの特筆すべき点は以下の3つである
① 応力分散が起きれば構造は毛状構造に限らない
② 生体適合性高分子や、エンジニアリングプラスチックなど様々な材料への応用が可能
③ 毛状構造を粘液部分で覆い、構造の破損を防ぐので繰り返し使用可能である
これらの3点はウバウオ模倣材料がバイオミメティクスの分野にとどまらず、医療、日用品、工業用品など様々な分野において応用可能であることを示している。
更に、今回の学会報告の締切の都合上受理等の結果は未定であるが、この発表内容は国際誌への投稿論文として提出済みである。投稿した国際誌のインパクトファクターは38.663であり、材料科学の分野ではトップクラスである。また、掲載は数カ月先だが、学会が毎月発行する機関誌にも同様の内容が掲載される予定である。

参加学会③
第69回高分子学会年次大会
・開催
2020年 5月27日(水) ~ 29日(金) (新型コロナウイルス感染症に伴い開催中止)
・学会の詳細
この学会は私の所属する高分子学会の3大行事の一つであり、合成、トライボロジー、材料特性、電気・電子・磁性機能から再生医療まで幅広い分野の研究者が集まる学会である。例年は3日間に渡って開催されるが、今年度は新型コロナウイルス感染症に伴い開催中止となり、アブストラクトの提出を持って参加扱いとなった。
・発表タイトルと概要
タイトル : セルロースナノクリスタル/キトサン混合フィルムの作製 [○辻岡 一眞・平井 悠司・下村 政嗣]
概要 : セルロースナノクリスタル(CNC)はセルロースを酸加水分解して結晶部位のみを取り出した微結晶であり、可食性、軽量・高強度、低熱膨張性、生分解性、生体適合性などの特徴を有するため、近年では合成プラスチックに代わる低環境負荷な材料として注目されている。合成プラスチック材料の中で特に問題視されているのが海洋汚染につながる包装材であり、代替材料としてCNCでフィルムを作製しても非常に脆く、耐水性に乏しいため使用が困難である。そこで我々はCNCと同様に低環境負荷な材料であるキトサンを混合することでこれらの問題の解決を試みた。CNCとキトサンを混合したコンポジットフィルムはそれぞれの特性に加え、耐水性や材料強度などが向上することで知られており今後も研究が進むと考えられる。本研究ではCNCとキトサンを混合したフィルムを作製し、さらに微細構造の転写を行うことで超撥水性の付与に成功した。
・アピール点
近年、CNC/キトサンコンポジットフィルムはプラスチック包装材の代替材料として研究が進んでいる。だが、多くの研究はバリア性や機械的特性、透明性などの特性しか評価を行っていない。そこで私は自分の研究室の分野であるバイオミメティクス、その中でも微細構造転写による超撥水性の付与に着目した。これは蓮の葉に代表されるように表面の突起とワックスによって水を弾く効果であり、蓮はこの効果によって表面の汚れを洗い流し光合成の効率を上げていると考えられている。実際に微細構造を持つコンポジットフィルムを作成したところ超撥水性が付与され、水が表面を転がり落ちるようになった。CNC/キトサンコンポジットフィルムで微細構造転写が行われた報告はほとんどなく、今後の発展が期待される内容となっている。

●北海道大学大学院 工学院 機械宇宙工学専攻 修士2年 奥田椋太
<参加学会>
AIAA Propulsion and Energy 2020 Forum
<開催地・開催日時>
VIRTUAL EVENT, August 24-28, 2020
<テーマ>
Fuel Regression Characteristics of Axial-Injection End-Burning Hybrid Rocket Using Nitrous Oxide
<概要>
ハイブリッドロケットは相の異なる2種類の燃料と酸化剤を用いたロケットである.安全性が高く運用上の制限が少ない等の様々な利点を持つが,低推力と推力制御時の性能低下が著しいといった問題がある.
当研究室ではこの問題を克服するため,高精度3Dプリンタで製造された燃料を用いた端面燃焼式ハイブリッドロケットの研究が行われている.端面燃焼式ハイブリッドロケットは無数の微小ポートを有する固体燃料を用い,酸化剤が流れる各ポートの出口で拡散火炎が維持される燃焼形態で燃料が軸方向に後退していく機構のロケットである.先行研究では当該ロケットの酸化剤に気体酸素が用いられてきた.しかし,宇宙での利用を考えた際に気体酸素は常温で液体保存ができず,宇宙に輸送する際に重量が大きくなってしまう.そのため,本研究では宇宙での利用を視野に入れ,酸化剤として常温で液体保存が容易な亜酸化窒素の検討を行った.当該ロケットの実用化には,ロケットエンジンの燃焼室圧力と燃料後退速度の関係が必要不可欠である.単ポート燃料を用いた調査は行われていたが、複数ポート燃料を用いた調査は行われていなかったため,本研究では燃焼実験を行い,複数ポート燃料の燃焼室圧力と燃料後退速度の関係を調査した.その結果,先行研究の酸素を用いた実験で単ポート燃料と複数ポート燃料の燃料後退速度はほぼ一致することが確かめられたにもかかわらず,亜酸化窒素の場合では単ポート燃料に比べ,複数ポート燃料の燃料後退速度は5倍程度速いことがわかった.この原因を解明するべく,燃焼の可視化実験を行った所,亜酸化窒素の複数ポート燃料は燃焼中に割れながら燃え進んでいることが確認された.先行研究の酸素を用いた複数ポート燃料の実験では,各ポートの出口で拡散火炎が維持される燃焼形態である安定燃焼で燃焼が進む.そのため,酸素の場合では安定燃焼火炎の入熱によって燃料が蒸発する速度,つまり燃料の分解速度が燃料後退速度を決定している.しかし,本研究の結果から亜酸化窒素の場合では燃料の割れる速度が燃料後退速度を決定していることがわかった.そのため,亜酸化窒素の場合単ポート燃料に比べて複数ポート燃料の燃料後退速度が速くなったことが考えられ,新しい燃焼モードで燃料が燃え進む可能性が示唆された.
<感想>
この国際学会には Technical Paper の枠として参加しました.この枠は口頭発表だけでなく,フルペーパーの論文も投稿する必要があります.参加するまでの流れとしては以下になります.
募集の際にアブストラクトを提出
審査が通れば,締め切りまでにフルペーパーの論文を投稿スライドを作成し,発表内容を録音して提出
この流れを経てようやく,発表日のセッションに参加することができます.アブストラクトの提出から発表に至るまで半年以上だったため,とても長い道のりでした.初めて英語の論文を書いたので,苦労することも多かったですが,海外の論文サイトに自分の論文が掲載されたのを見て,頑張ってよかったなと達成感を感じることができました.今回の国際学会は世界最大の宇宙系の学会なので,発表者は全世界から訪れます.今年はコロナの影響で開催地のニューオリンズに行けず,オンラインでとても残念でしたが,自分の発表セッションの際には英語での議論が活発に行われ,他の国々の方々と交流することができました.普段外国の方と多くの議論を交わす機会がないため,とても新鮮で楽しかったです.自分の研究はほとんど先行研究がなく,うまくいかないことが殆どで,トライ&エラーの繰り返しでした.あの時諦めなかったからこそ,今回の学会に参加することができ,いい経験を得ることができたなと思います.この経験を今後も活かして,多くの壁を乗り越えていきたいと思います.

https://doi.org/10.2514/6.2020-3753
<参考URL>
AIAA Propulsion and Energy Forum and Exposition | AIAA

●北海道大学理学部化学科 量子化学研究室 4年 長谷部 匡敏
化学系学協会北海道支部2021年冬季研究発表会
化学系学協会北海道支部2021年冬季研究発表会 (hokudai.ac.jp)
・学会のテーマ
反応性軌道エネルギー論に基づくグローバル反応経路地図の解析
※優秀講演賞(口頭発表部門)受賞
・発表内容
理論、計算機の発展により、密度汎関数理論(DFT)を用いた計算が頻繁に行われるようになった。近年、長距離補正(LC-)DFTに基づいた新規な反応解析法(反応性軌道エネルギー論)が開発され、今までは定量的な算出が難しかった軌道エネルギーに基づいて化学反応解析が行えるようになった。本理論は、反応電子論と反応エネルギー論の統合を志向するもので、実際の解析では化学反応を主導する軌道を特定し、その変化や電子移動性を議論することができる。
本研究では、共通の化学組成を有する化合物間を結ぶ無数の反応経路ネットワーク(グローバル反応経路地図)の解析を行った。このような反応経路ネットワークは従来はエネルギーに基づいて議論され、軌道に関しての考察はあまり行われていなかったが、本研究により、各反応経路に対しての個別な電子論的解釈が可能であることが示唆された。今後は、計算対象を増やして解析と理論的洞察を進め、反応電子論と反応エネルギー論の密接な関係性を明らかにしていく予定である。

●北海道大学大学院理学院 物性物理学専攻 統計物理学研究室 修士2年
東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 速水研究室 特別研究学生
山家 椋太
▪️参加学会
① 日本物理学会2020年秋季大会、2020年9月8日、「遍歴磁性体における異方的なスピン電荷結合が誘起するスキルミオン結晶」
② FYR02 QLC meeting、2020年12月22日、「Skyrmion Crystals in Centrosymmetric Itinerant Magnets without Horizontal Mirror Plane」
▪️発表内容
デバイスの高性能化の手段の一つとして、固体中の電子がもつ磁気的な性質を利用したスピントロニクスがある。スピントロニクスデバイスへ応用可能な磁気構造として、電子スピンのナノスケールの渦状構造である磁気スキルミオンが注目を集めている。磁気スキルミオンは連続変形では消せないトポロジカルに保護された構造であり、不純物や外場による撹拌に対して堅牢である。また、磁気スキルミオンは磁気情報記録媒体の高密度化を可能にするとして期待されている。
我々は、磁気スキルミオンが格子を形成したスキルミオン結晶の微視的な安定化機構を理論的に研究した。スキルミオン結晶の安定化機構に関しては、結晶構造の空間反転対称性の破れに起因した磁気異方性に着目して長い間研究されてきた。したがって、結晶構造の回転対称性や鏡映対称性等の破れに起因した磁気異方性がスキルミオン結晶の安定性に与える影響は未だ十分に明らかにされていない。そこで我々は、結晶構造に依存した磁気異方性の導出を行い、導出した磁気異方性がスキルミオン結晶の安定性に与える影響を調べた。その結果、水平鏡映対称性の破れから生じる磁気異方性が、磁場の値に応じてトポロジカル数1と2のスキルミオン結晶を安定化することを明らかにした。
本結果から、スキルミオン結晶が発現する新規物質探索に対して、導出した磁気異方性に基づき電子軌道と結晶構造の対称性の立脚した探索指針を与えることが期待できる。特に、水平鏡映対称性の破れた層状化合物等ではスキルミオン結晶の発現可能性が高いと考えられる。さらに、水平鏡映対称性の破れた結晶構造では磁気構造のトポロジカル数が2→1→0と多段階に変化し得るため、磁気スキルミオンを利用した多値メモリの実現が期待される。

●北海道大学工学院 修士1年 三輪拓実
学会名 :AIAA Propulsion and Energy 2020 Forum
日時  :2020/8/24 – 2020/8/28 (オンライン開催)
題目  :”Visualization of Fuel Regression Rate in Axial-Injection End-Burning Hybrid Rocket”
内容  :一般的に、ハイブリッドロケットの燃焼は金属の燃焼器の中で行われるため、燃料がどれだけ消費されているか(燃料流量)を直接測定することは困難である。そこで、圧力や酸化剤流量といった容易に計測が出来るパラメータから燃料流量を推算する「再現法」が開発され、先行研究で多く用いられてきた。この研究では、新形式のハイブリッドロケットである端面燃焼式ハイブリッドロケットを、燃焼器内部を可視化できる特殊な実験装置の中で燃焼させることで、可視化の結果から燃料流量を実測した。再現法を用いて予測した燃料流量と、可視化によって実測した燃料流量を比較することで再現法の精度を評価した。結果として、再現法は低い燃焼室圧力条件(0.8MPa以下)では高い精度を有すが、高い圧力条件では実際の燃料流量よりも過大に予測することを確認した。またその原因が燃焼中の燃焼効率の変化であることをつきとめた。

これに加え、査読中ではありますがAuthorとして一本、Co-Authorとして一本の論文を投稿しました。
Authorとして
学術誌:Journal of Propulsion and Power
題名 :”Visualization of Fuel Regression Rate in Axial-Injection End-Burning Hybrid Rocket”(査読中)
Co-Authorとして
学術誌:Journal of Propulsion and Power
題名 :”Fuel Regression Characteristics of Axial-Injection End-Burning Hybrid Rocket Using Nitrous Oxide”(査読中)

35期修了生
奥田 椋太 北海道大学大学院2年
大束 優未 小樽商科大学4年
福江 優香 北海道大学大学院2年
三宅 冬馬 北海道大学4年
大場 光希 北見工業大学大学院 2年
福田 哲也 北海道大学大学院2年
上月 彩寧 北海学園大学4年
松嶋 龍文 室蘭工業大学大学院2年
大貫 瞳 北海道大学大学院2年
窪田 有希 北海道情報大学4年
山家 椋太 北海道大学大学院2年
大内 昴 北海道大学大学院2年
早藤 亜衣 北海道情報大学 4年
山名 風太 公立はこだて未来大学大学院 2年
長谷部 匡敏 北海道大学 4年
西村将太朗 北海道大学 4年

更新: 2021/3/31 水曜日 9:55:03